お酒の話をします。未成年の方、ごめんなさい!
現在、日本の酒税法によるとお酒とはアルコール度数が1%以上の飲料を指します。
酒造の際、エタノール(飲用アルコール)を含んだ飲料を作る方法は主に2つです。
エタノールと水の沸点の違いを用いる方法(蒸留酒など)と糖をエタノールに分解するアルコール発酵と呼ばれる化学反応を用いる方法(梅酒、ワインなど)です。
今回は後者のアルコール発酵に注目してアルコール生成メカニズムを解明します。
化学反応という言葉に戦慄した方にも、分かりやすく理解していただけるよう工夫したので、ぜひ読んでみてください。
アルコール発酵の仕組み
分かりやすいアルコール発酵
アルコール発酵とは、酵母という微生物の影響で、糖がアルコールに変わる反応のことです。
上の関係式で重要なのは糖とアルコールの関係です。
アルコールを多く作るためには糖を多く消費する必要があることが分かります。
つまり、基本的にお酒を造るとき、高いアルコール度数を求めれば、甘さの控えめなお酒が造られるということです。
アルコール発酵で造られるお酒は主にこれらです。
- 果実酒(ワイン、りんご酒など)
- 日本酒
- ビール etc.
日本酒もビールもデンプン(米や麦などの穀物)を糖まで分解してからアルコール発酵を行いますが、果実酒に関してはすでに糖を多く含んでおり、造るのが比較的容易です。極端な話、果汁ジュースに酵母を加え、繁殖しやすい環境(温度や湿度)を整えるだけで果実酒は造れてしまいます。
※梅酒を造る際に氷砂糖(糖)を大量に入れる主な理由は、浸透圧で梅の成分や風味を移すためです。今後、浸透圧と梅酒の関係性も記事にしていきます。
突っ込んだアルコール発酵
理系の方は、アルコール発酵を高校の有機化学で習ったはずです。
そこでは、アルコール発酵はグルコース(糖)からエタノールができる反応であると習いました。
しかし、実際のアルコール発酵は上のような反応式ほど単純ではなく、複雑な相互作用による多段階の化学反応です。それだけでなく、酵母がアルコール発酵を行う目的はアルコール生成ではありません。
ここで、ポイントとなるのはアルコール発酵が、
「アルコールを作りたい訳ではないけど、作るしかない」
ときに起こる反応だということです。
そもそも、酵母は微生物であるので、人と同様に呼吸をすることで酸素をエネルギーに変えています。
ここでのエネルギーとは、アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate)、略してATPです。
酵母からするとエネルギー効率を考えれば、好気呼吸をしたいわけです。
なぜなら、1molのグルコースからエネルギーを作る場合、
アルコール発酵では2ATPしか得られないのに対し、好気呼吸であれば38ATPも活動エネルギーを得られるからです。
しかし、液中など酸素が不十分な環境下では好気呼吸を行えず、仕方なくアルコール発酵でエタノールを生成して生きるためのエネルギーを作るわけです。大多数の微生物にとってエタノールは有害なので一部の酵母は死滅してしまいますが、エネルギー不足による全滅を防ぐためには犠牲をいとわない姿勢を貫いているのです。
まとめると、アルコール発酵とは酵母がATP(エネルギー)を作るために仕方なくエタノールを作る反応です。アルコール発酵という名前は、お酒好きの人間都合で付けられた名前で「緊急時エネルギー獲得反応」の方が良いのかもしれません。
最後に
アルコール発酵は糖からエタノール(飲料アルコール)を作る反応です。
しかし、生物学的な意義を考えると、アルコール発酵とは酵母が自らに有害なエタノールを作ってでもエネルギーを得るために仕方なく行う反応なのです。
本記事の作成後、アルコール発酵は人間目線ではお酒を造るために重要な反応ですが、酵母目線では生きるために必死に行っている切ない反応であり、そこの差異を再確認することができました。
コメント