今回扱うのは、見えない心に関する2つの実験です。
ある日、成人男性100人を集め、1人1人にインタビューをします。
そこで1人1人に「自分の長所を1つあげてください」と聞くと、
「みんなよりシャンプーがよく泡立ちます!」とか、
「私は人よりもやさしい」とか、
それなりに適切な答えが返ってくるでしょう。
ここで、このインタビューの対象を100匹のネコに変えてみます。
その場合、答えは返ってこないでしょう。
では、このような場合どのようにして答えをもらうのでしょうか?
「行動」から答えをもらうのです。
このように心理学の実験では行動を重視しようという立場を行動主義といいます。
パブロフの犬とアルバート坊やの実験を通して、20世紀前半に主流となった行動主義を見てみましょう。
パブロフの犬の実験
この実験はロシアの生理学者イワン・パブロフ(1849~1936)によって行われました。
実験の内容です。
まず、犬にエサを見せると唾液を出します。
次に、エサを見せると同時にベルの音を聞かせます。
最後に、エサを見せずにベルの音のみを聞かせます。
すると、犬はなぜか唾液を出してしまいます。
実験意義
人間は、明るいものを見たら無意識に瞳孔が閉じ、目にゴミが入ったら無意識に涙が出ます。
このように、生物は無意識に特定の刺激に対し、体が反応してしまいます。
このような現象を反射といいます。
パブロフの犬の実験によって、動物に後から学習して身につけることのできる反射があることが示されました。
アルバート坊やの実験
この実験はアメリカの心理学者ジョン・ワトソン(1878~1958)によって行われました。
実験の内容です。
被験者は生後11か月の男の子、アルバートです。
はじめ、アルバートはネズミを見ても怖がりませんでした。
しかし、ネズミを見せるのと同時に、大きな音を鳴らしてアルバートを怖がらせました。
結果、アルバートはネズミを見ただけで怖がるようになりました。
実験意義
アルバート坊やの実験によって、学習による反射が人間でも起こることが示されました。
そして、アルバート坊やの実験は乳児にトラウマを植え付ける実験だとして批判の対象となりました。
一方で、ワトソンが牽引した行動主義は20世紀前半の心理学の主流となることになります。
背景
長いこと、心は哲学的に解釈されてきました。
19世紀、心のはたらきを科学的な方法で研究しようとする心理学が登場します。
しかし当時、被験者の心の状態を知る方法として主流だったのは、被験者による自己分析のもと直接聞くことでした。
この方法では、言語が通じるのはもちろんのこと、被験者の心が発達し終えている必要があります。
発達段階では自分自身が心を正確に分析できているのかがわかりません。
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ましてや、被験者が嘘をつくこともできてしまいます。
以上の問題点から、「心理学が科学として確立されるためには客観的に観察できるものに基づくべきだ!」という主張のもと、内観ではなく「行動」を重視する行動主義が誕生します。
そして、行動主義を広めたのがアメリカのジョン・ワトソンです。
あるとき、ワトソンはロシアのイワン・パブロフが行ったパブロフの犬の実験を知り、多大な影響を受けます。
そして、パブロフの犬の実験を参考に、学習が人間の行動に与える影響を調べるためにアルバート坊やの実験を行います。
しかし、アルバート坊やの実験は人間を対象に行った実験であったので、倫理的な観点から批判の対象となりました。
もちろん今でも、このような実験は許されたものではありません。
2018年には、中国でHIVに感染しないよう遺伝情報を書き換えられた双子の実験が問題となりました。
しかし、気になるところはアルバートのその後です。
実際、アルバートは大人になってもネズミを怖がったのでしょうか?
どうやら、アルバートはすでに亡くなっており、アルバート坊やのその後について知っている人はいないようです。
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